コンセプトノート

「国際女性記念の年に寄せて(ウェビナー)」について

 2020年3月にWHOによりパンデミック宣言がなされた新型コロナウイルス感染症は、我が国を含む国際社会において社会的・経済的に脆弱な人々が抱える課題を一層浮き彫りにした。米国ではアフリカ系米国人やヒスパニック系の人々、欧州では難民やロマ、日本においては非正規雇用の人々を始めとする、社会的に脆弱な人々が大きな影響を被っている。とりわけ、女性については、男性と比較して大きな影響が及ぼされていることが様々な面で指摘されており、新型コロナウイルス感染症が蔓延する以前から課題となっていたジェンダー間の格差が、コロナ禍において一層拡大していくことが懸念されている。
 我が国においては、非正規雇用やサービス業等における就業者数の割合が男性より女性の方が高く、コロナ禍において女性が経済的に大きな負の影響を受けていることが指摘されている。2020年4月には非正規雇用労働者の女性を中心に就業者数は大きく減少した(男性:37万人減、女性:70万人減)。また、女性のこうした非正規労働による収入が主たる家計となりつつあるため、コロナ禍における解雇や休業等は家計全体に影響を与えるものとなっており、もはや、女性だけの問題ではなくなっている。さらに、家庭内暴力(DV等)の増加や経済苦等の状況にあり、逃げ場のない女性の自殺者の増加が懸念されている(2020年の女性の自殺者は暫定値で7,025名と対前年比15.3%増)。
 外出自粛や失業等に伴う生活不安やストレス等により、女性に対する暴力は、オンライン上の暴力も含め、今後も増加や深刻化が懸念されることから、一刻も早い対応が求められている。国際的には紛争地において、同様に、性的暴力や女性人権活動家への攻撃が益々増加することが懸念されており、コロナ禍による経済的・社会的影響を緩和するための対策は、平和の構築・維持にも必須のものとなりつつある。
 昨年(2020年)は、第4回世界女性会議における北京宣言及び行動綱領の採択から25周年、国連安保理決議1325号(女性、平和、安全保障)採択から20周年という女性にとって記念すべき年として様々な国際会議が企画され、また、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会等のスポーツの祭典が予定されていたものの、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大の影響を受け、中止又は延期となった。厳しい外出禁止又は自粛、新しい生活様式の実践が続く中で、ポスト・コロナ社会を見据え、この危機からの復興を変革の好機と捉え、どの世代も、どのジェンダーも取り残されることない、よりよい社会の構築が求められている。
 本ウェビナーでは、こうした国際的な女性の記念年に寄せて、新型コロナウイルス感染症が蔓延する以前から課題となっていたジェンダー平等の課題の中から、①「女性のエンパワーメントをよりよい社会の原動力に」、②「スポーツ界における女性のエンパワーメント」、③「女性・平和・安全保障って何?」、の3つをテーマにパネル・ディスカッションを行い、経済成長を取り戻しつつ、平和で安定した、全ての人にとって生きやすい、より良い社会づくりのために、女性のエンパワーメントや平和維持・平和構築等への参画の観点から何ができるかを議論する。

パネル・ディスカッション01

女性のエンパワーメントをよりよい社会の原動力に

 2014年に開催されたG20ブリスベン・サミットにおいて、G20各国は2025年までに労働参加におけるジェンダーギャップを25%縮小することを「ブリスベン・ゴール」として宣言した。これを踏まえ、2019年に日本が議長国として開催したG20大阪サミットでは、今後首脳レベルでブリスベン・ゴールの達成状況をレビューしていくことを確認した。また、G20大阪サミットでは、女性の経済的代表性のエンパワーメント及び向上のための民間部門アライアンス(EMPOWER)の立ち上げが歓迎され、民間部門における意思決定層への女性の昇進を拡大するための取組・活動が国境を越えて本格的に実施に移されつつある。
 近年、女性リーダーが選出されることで企業全体の雇用環境の向上がもたらされること、また、多様性が当然の企業文化となることで優秀な人材が集まることが指摘され、企業の持続的発展の観点からも一層多様性を高め、長時間労働やハラスメントを是正し、柔軟な働き方を実現することの重要性が指摘されてきた。昨今の政府・民間企業による女性活躍推進の取組みの結果、日本における女性の就業者数は約3000万人となり、就業者全体の約44.5%を占めるに至った。また、子育て期の女性の就業率も2012年の67.7%から2020年には77.4%まで上昇した。一方で、依然として半数以上の女性が非正規雇用労働者として働いており、そうした女性たちが今、コロナ禍において、失業や休業、シフトの削減といった困難に直面している。
 また、民間企業の管理職に占める女性の割合は課長相当職以上で10.1%、上場企業の女性役員数の割合は6.2%(2020年)にとどまっている。イギリスでは、企業役員の女性比率を3割に引き上げることを目標に掲げた「30%クラブ」が2010年に始まり、ロンドン証券取引所の上場企業100社の女性役員比率が12.6%から2018年には30.6%に急増した。また、機関投資家等もESG投資等を通じて女性役員の比率向上を後押ししている。日本でも「30%クラブ」が発足し、2019年5月、TOPIX100の取締役会に占める女性割合を2030年に30%とすることが目標として掲げられた。
 統計によると、管理職に女性が多い企業ほど、多くの利益を出すことが示されており、そうした企業形態へと至る道筋をどのように整備していくかが問われている。ポスト・コロナ時代においては、経済面での負の影響を断ち切り、女性の活躍を社会の原動力として経済的エンパワーメントを進めていくことがより一層重要となっている。生産性を高めつつ、男女で効率よく働き、家庭では家事・育児・介護等の無償労働責任を分かち合い、誰もが取り残されることなくより生きやすい社会の構築といった新しい段階へ、我々はどうしたら円滑に移行していけるのだろうか。女性のエンパワーメントの必要性は、経済面のみならず政治・社会の分野においても求められている。経済と政治・社会が密接に関わる中で、ポスト・コロナ時代のより良い社会づくりのためには、これらを有機的に連携した対応が一層必要とされるであろう。

論点

  • 新型コロナウイルス感染症の拡大により、ジェンダー間、また世代間にどのような影響を及ぼしたか。また、その原因は何か。
  • 働き方の変化や新しい生活様式の実践の中で、前向きな変化はどのようなものがあるか。
  • ジェンダー平等の視点にたったよりよい社会の構築に向けて、現在どのような障害があるか。
  • 女性の経済参画を更に促進するために、各セクターにおいてどのような視点からの取組が求められ、
    各セクター間でどのような連携が考えられるか。
  • ポスト・コロナ時代において、女性の活躍推進を含め、男女が共により生きやすい社会の実現をどう図っていくか。
パネル・ディスカッション02

スポーツ界における女性のエンパワーメント

 コロナ禍における生活様式の変化を余儀なくされたこの一年、男女が運動の大切さやスポーツをする喜びを再認識するとともに、工夫を凝らすことにより新たな運動方法の裾野やスポーツの可能性も広がりつつあるかもしれない。他方で、子育て中のアスリートにとっては、外出制限等により、家事とトレーニングのバランスを図ることが難しく三重苦となっているとの声もある。
 近年、女性アスリートを取り巻く環境として、様々な問題が認識されつつある。具体的には、(1)女性アスリート育成のための予算や練習場整備、女性プロリーグへの投資の少なさ、(2)女性指導者や意思決定レベルへの女性参画の不足、(3)男性アスリートとの賃金格差、(4)スポーツ界における暴力・セクハラ,女性アスリートの写真や動画の悪用といった問題等が指摘されている。日本オリンピック委員会及びスポーツ関係団体は、昨年、盗撮や写真・動画の悪用による被害の相談を複数の女性アスリートから受け,アスリートに対する性的な画像や書き込みの被害を防止する声明を発表した。
 スポーツ界においても、意思決定レベルへの女性参画は課題である。競技スポーツ指導者やスポーツ関連団体における女性役員の割合が低い水準に留まっていることを踏まえ、日本のスポーツ庁は、スポーツ団体が適切な組織運営を行うための原則・規範として「スポーツ団体ガバナンスコード」を2019年6月に策定し、女性理事の目標割合(40%)を設定するとともに、その達成に向けた具体的方策を講じることを明記している。これは、男女平等の原則を実践すべきとのオリンピック憲章の理念にも叶うものである。
 国や文化、治安情勢により、女性がスポーツをする機会や環境が限られる、スポーツをすること自体が困難である、といった状況も存在する。2015年に採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、スポーツは持続可能な開発を可能にする重要な要素であり、女性のエンパワーメントに貢献することが明記されている。日本政府は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて、世界のよりよい未来のために、あらゆる世代の人々にスポーツの価値とオリンピック・パラリンピック・ムーブメントを広げていく国際貢献事業「スポーツ・フォー・トゥモロー」を実施しており(2020年9月までに、204か国・地域の約1,220万人が参加)、女性パラアスリート、女性アスリートの環境改善や参画支援の取組みも行っている。また、特にASEANとの間では2017年からスポーツ大臣会合の枠組みの下、スポーツ分野における協力を推し進めてきており、女性スポーツ分野を優先協力の一つとして取り組んでいる。また、民間においても様々な試みがなされており、例えば今年始動予定の日本女子プロサッカーのリーグでは、スポーツにおいて女性が直面している課題に取り組み、国内外の女性活躍を促進することを目的として、ASEANを始めとする各国に能力強化や指導者を派遣する等の支援を実施している。
 女性・女児が主体的にスポーツを楽しむことは、体力や健康の増進に加えて、情操教育やリーダーシップを身につけることができ、自分の能力を信じて主体的に行動することによりエンパワーメントにつながる。スポーツ界における男女の格差が改善され、ジェンダー平等が達成されるにはどのような取組が必要か議論する。

論点

  • 女性アスリートが活動しやすい環境を整備するためには、どのようなことが必要か。
  • 女性が主体的にスポーツに取り組むにあたり、障害となるものは何か。
  • スポーツ界において女性が指導者や意思決定層へ参画していくためには、どのような取組みが必要か。
  • メディアや企業、アスリートのサポーターが、スポーツ界のジェンダー平等に向けてできることは何か。
  • 新型コロナウイルス感染症拡大の中で、女性アスリートが置かれた状況を改善していく工夫はどのようなものがあるか。
    また、前向きな変化はどのようなものがあったか。
パネル・ディスカッション03

女性・平和・安全保障ってなに?

 世界では多くの女性や少女たちが、身体的な暴力や性暴力、経済的・精神的な虐待を受けている。また、昨年来のコロナ禍における外出制限や都市封鎖などがジェンダーに基づく暴力(家庭内暴力(DV)を含む)を助長しているとの調査報告もある。ジェンダーに基づく暴力は、日本や欧米諸国だけでなく様々な国で起きている。特に途上国や紛争国においては、女性の人権が暴力によって侵害されることによる治安の悪化は、家庭だけでなく、コミュニティーや国全体における安全で平和な社会の構築に陰を落としている。
 国連女性機関(UN Women)は自らが発表した統計に基づき、平和構築にかかわる軍や警察、議会等の意思決定プロセスにより多くの女性が参加することで、女性が参加しない場合に比べて、平和が長く維持されると指摘している。また、そのような指摘を共有しつつ、理由として、女性は「非暴力」の手段を選ぶ傾向にあるためとする研究結果もある。こうした観点から、紛争予防・解決や平和維持活動、人道支援や紛争後の平和構築等の全てのフェーズに女性の視点を入れることが不可欠である。このような考え方に基づき、2000年に「女性・平和・安全保障(WPS: Women, Peace and Security)」に関する国連安保理決議第1325号が全会一致で採択された。これを受けて、各国政府・国際社会は、女性たちが平和・安全保障といった分野に参画しやすい環境を作るとともに、治安部門における女性の活躍を推進するといったことに取り組んできた。また、自然災害が多発する日本では、災害の予防・対応における女性の参画の推進もWPSの文脈で実施している。
 WPSは、日本国内ではあまり聞きなれない言葉であり概念であるが、安保理決議第1325号は、平和な世界を作るため20年以上前に国連安保理で採択されるに至った大事な決議であり、国連加盟国に具体的な取組を求める実効力を伴うものである。このセッションをきっかけに一人でも多くの人たちに、様々な国で女性や女児が受けているジェンダーに基づく暴力を知ってもらい、自分のこととして共に考えてもらうとともに、女性が、単に被害者という受け身の立場ではなく平和を作るために行動を起こせる主体者として、ジェンダーに基づく暴力の防止と対応、紛争予防や平和構築における女性の参画を確保して平和な社会の実現に取り組んでいることを知ってもらい、応援してもらいたい。政府だけではなし得ないことも含め、市民社会、有識者等が様々な立場から参画し、お互いに力を合わせることで世界をよりよいものに変えていくことができる。
 このセッションでは、上記のような背景・目的を踏まえ、(1)コロナ禍が紛争影響国や脆弱国における女性にもたらした影響、その現状や課題、(2)支援側(国際機関、ドナー国、市民団体)の取組や現地の人々の活躍、(3)国際社会全体としてなすべきことは何か等を専門家からお話しいただき、私たちが様々な立場から自分にできることを考え、安保理決議第1325号の中核にある「平和の担い手としての女性」を増やし、支えていく、あるいは、自分自身がその担い手となっていくにはどうすべきかを考えるきっかけとしたい。

論点

  • 新型コロナウイルス感染症拡大の中で、女性・平和・安全保障(WPS)推進の観点では紛争影響国の女性たちの現状はどう変わったか。
  • 日本政府のこれまでのWPS関連の取組とはどのようなものか、また、国際社会、NGOなど支援団体の取組はどのようなものだったか。
  • 被支援国における活動内容や現地女性の取組で紹介したいこと、好事例など。
  • 苦境を乗り越え、WPSを一層進めるための政府、国際機関、NGO、市民社会の役割とは。